子どもに発達障害の診断が下りた。
グレーゾーンと言われ、療育を紹介された。
そんなとき、きっと
「子どもの苦手を克服したい!」
「周りに追いつきたい」
「子どもを普通にしたい」
という思いが出てくるでしょう。
けれど、子どもを思うがゆえに、親が必死になった結果、二次障害(自傷、不登校、うつ病、家庭内暴力、引きこもり、犯罪など)を発症する子どもが少なくないです。
親や周りのどんな行動が子どもの二次障害につながるのか。
「発達障害に生まれて」という一冊から、一緒に学んでいきましょう。
ママさんエスコーター
「発達障害に生まれて」について
「発達障害に生まれて」は、小児科医の松永正訓先生の著書です。
「母」としてモデルになったのは、立石美津子さん。
自閉症の息子「勇ちゃん」が生まれてから17年の親子の軌跡を記した一冊です。
立石さんは、20年間学習塾を経営され、現在は著者・講演家として活動されています。
この本には、
- 我が子が自閉症と診断されたときのショック
- 健常児のママや健常児の存在への嫉妬心
- 子どもの「こだわり」との格闘
- 二次障害を目の当たりにした衝撃
- 親亡き後の子どもへの心配
こうした、発達障害や特性のある子をもつ親なら、共感できるような内容が盛りだくさんに書かれています。
その中でも、幼少期の子どもをもつあなたが知っておくべきことを、この本に書かれているエピソードがらお伝えしたいと思います。
健常児に近づけたい!母の思い
息子の勇ちゃんには、2歳半で自閉症の診断が下ります。
母は3つの病院を回り、ドクターショッピングをしましたが、どの医者からも「自閉症」という言葉を聞くことになりました。
そのときの母の心境です。
ハンディキャップのある子を産んでしまったのは私の責任。
それならば一つでも多くこの子にできる事をして、
健常児に近づけなくてはいけない。
自分が働いているのは、全て療育のため。
そんな気合で仕事と療育に没頭した。
あなたも、こんな思いを抱いたこと、
『何とかできることはないか』と
駆けずり回ったことがあるのではないでしょうか?
診断が下りてすぐに
- この子はこの子のままでいいんです
- できることを伸ばしましょう
- 無理をさせないで
といったことを、すんなり受け入れられる親はいないです。
でも、療育やトレーニングを進めていくうちに、わかってくることがあります。
親は子どもと一緒に経験を重ねると、「無理をさせないこと」がいかに重要かということに気づいてきます。
強引な訓練が二次障害につながる
あなたは、子どもの苦手を治そう、克服しようと、何度も子どもに苦手を経験させていませんか?
本当に、それは子どものためになっているでしょうか?
次の「ジェットタオルの音に慣れさせる訓練」を参考にしてください。
聴覚過敏の子に苦手な音に慣れさせるトレーニング
自閉症児には聴覚過敏の子が多いです。
勇ちゃんもその1人で、特に公衆トイレに設置してある、ジェットタオルのブーンという音を非常に嫌がりました。
療育施設では、ジェットタオルの音に慣れさせる訓練が行われていました。
勇ちゃんは、その訓練に強い拒否反応を示し、施設の入り口では体をこわばらせるようになってしまいました。
加えて、トイレに行かずに済むように、尿意も我慢するように…。
母は、病院の医師に
「どうしたらジェットタオルを使えるようになりますか?」
と相談します。
その時の医師の返答はこうです。
お母さん!そんなことをしていると将来、二次障害になりますよ!
二次障害を起こしてここの病院に入院することになりますよ。
二次障害で苦しんでいる子どもがたくさんいる。
今すぐにそんな練習をやめて下さい。ジェットタオルのない公衆トイレだってあるんだから、
『ジェットタオルのないトイレマップ』を作って
そこを利用すればいいんです。
目の前の苦手なことよりも深刻な問題があることに気づいて
ジェットタオルを使えない。
だから訓練して使えるようにする。
これは、一見苦手を克服するような正当な行動のように思えますがここには大きな落とし穴があります。
音に敏感で嫌がっている子どもに、音に「慣れさせる」ために何度もその音を聞かせる。
そうなると、子どもは慣れるのではなく、拒否反応が強くなっていきます。
トイレに行くための訓練のはずが、ジェットタオルの音を聞くのが怖くて、トイレに行けなくなってしまいます。
それだけでなく、二次障害を引き起こしてしまいます。
鬱病・強迫性障害などの心の障害をきたしたり、
不登校・ひきこもり・家庭内暴力・自殺・犯罪などの問題行動です。
目の前の苦手を克服したいがために、もっと大きな問題を生み出す結果になっていないか、あなたもぜひ、子どもへの行動を見直してみて下さい。
苦手な「変化」に適応させる地道な方法
では、子どもの苦手をそのままにしておいて、いいのか?
ずっと社会に適応できないままなのか?
そんな思いがあるのではないでしょうか?
ここで、電車へのこだわりに関するエピソードを紹介します。
強引な方法では、パニックが爆発する
4歳の勇ちゃんは、井の頭線の3000系という車両にこだわっていました。
よく似ている1000系ではダメでした。
出典:マイナビニュース
療育に向かうある日、どれだけ待っても3000系が来ませんでした。
これ以上待っていては、療育に間に合わないため、母は強引に勇ちゃんを1000系に乗せました。
勇ちゃんは、パニックを起こし、目的の駅までの30分の間、暴れ続けました。
その夜、母は心の中で何度も勇ちゃんに謝りました。
ジェットタオルの療育で一体自分は何を学んだのだろうか。
I先生からは、「親と一緒だったら安心だという体験をさせなさい」と諭されたはずだった。
「親と一緒にいたら安心」がこだわりから脱却させてくれる
電車でパニックを起こしてから2年間。
うだるような灼熱の夏も、寒風が吹きすさぶ冬の日も、どんな日も。
親子は、絶対に勇ちゃんのお気に入りの3000系を待ちました。
けれど、その3000系は、「あと1か月で完全に廃止になる」という事実がやってきます。
母は息子に、4月からは1000系の電車に乗ることを繰り返し説明し、説得しました。
そして4月になった。
療育に行く日、母は勇ちゃんの手を引いてホームに立った。
1000系の電車が入ってきた。
勇ちゃんの顔が強張った。
身を固くして電車に乗り込んだがパニックになることはなかった。
親子で2年間、3000系を待ち続けたことが
「親と一緒にいれば安心」ということを勇ちゃんに理解させたのです。
その地道な努力の上に、1カ月の説得があった。
だからこそ、勇ちゃんはこだわりから脱却して、最も嫌う「変化」に対応できたのであろう。
親が安全地帯になってやる
こだわりの強い子に対して、親は、社会に適応できるようにと、そのこだわりを崩そうとします。
時には「変化」を嫌う子へ「変化」を強いることで変化を学ばせようとします。
でも、上記のジェットタオルの件、電車へのこだわりの件でもわかるように、子どもに強引に何かを押し付けてもパニックを起こしてしまうだけです。
そして深刻な二次障害にもつながります。
この本で紹介されている子どもへの対応は
- 幼いうちは子どもにとっての安全基地を作って、その中で子どもを守ってやる。
- 子どもから見た場合、母親とは自分を守ってくれる人間と教える。
- 無理強いは絶対に良くない
- 厳しい方針で育て続ければ、子どもはずっと不安の中で生きることになる
- こだわりにはとことん付き合う
です。
安心できる日が長く続くと、自然と音に対する我慢が可能になる。
こだわりを捨てることも可能になる。
ということなのです。
まとめ
過敏やこだわりがある子どもを育てていると、それに付き合う親はヘトヘトになります。
周りの「普通の子」はジェットタオルの音に、はじめは驚いても、すぐに慣れてくれる。
同じような電車であれば、少し違っても乗ってくれる。
こんなこだわりを持ったままでは、社会に適応できないのではないか。
この子のために厳しく接しないと!
と心を鬼にして、子どもの苦手克服に取り組んでいるお母さんも多いです。
でも、こだわりをなくしたり、我慢させようとする取り組みは、徒労に終わります。
それどころか、子どもにストレスを与え続け、二次障害を発症させていまいます。
過敏やこだわりのある子には
「その子のイヤなことをしない」
「徹底的に付き合ってあげる」
ということを実践して下さい。
あなたが、子どもにとっての安全基地となり、安心できる日が長く続くと、自然と苦手なことを我慢できるようになります。
こだわりを捨てることも可能になります。
でも実際、子どもに付き合うのは大変で、親のストレスも蓄積してきます。
そんなときは、この「ちょっとだけ育児」に来てください。
同じ悩みのママと支え合い、励まし合って、一緒に子どもの成長を見守りましょう。
ママさんエスコーター
ぜひ一読してみて下さいね。